逆説の日本史 10 戦国覇王編

信長の味方(!)井沢元彦の歴史ノンフィクション。

信長は残虐な無神論者ではなく、敬虔で寛容な政治家だった。
という視点から信長の様々な行為を分析していく。

晩年のころの「わたしは神だ」宣言も、肯定的に受け止めている珍しい本。

なんでも信長に好意的に解釈しているので、信長好きにはたまらない一冊です。

戦国時代の大誤解

戦国時代の大誤解 (PHP新書)

戦国時代の大誤解 (PHP新書)


戦国時代の大誤解 鈴木眞哉 PHP新書


 武田の騎馬軍団などありえない?信長は桶狭間で奇襲していない?な
など常識をうちやぶる説をとなえる在野の研究者 鈴木眞哉氏の本。


 信長で言えば、信長はかなり誤解されているそうで

・性格に問題あり・・・他人の背信行為は追及するが、自分はやりたい放題だった
無神論者ではなかった
・戦術はいまひとつだが、大戦略家だった
・宗教勢力を押さえる事で、聖俗分離を実現させた

などなど。
鈴木氏の見解は、資料から仮説への展開が納得できるものが多く
わたしには大変リアリティが感じられました。

桶狭間長篠の戦い、鉄船などについても新説があり楽しめます。


 

鬼と人と 堺屋太一

鬼と人と―信長と光秀 (上巻) (PHP文庫)

鬼と人と―信長と光秀 (上巻) (PHP文庫)

 

鬼と人と―信長と光秀 (下巻) (PHP文庫)

鬼と人と―信長と光秀 (下巻) (PHP文庫)


鬼と人と 堺屋太一 PHP出版


元通産官僚・作家・評論家で元経済企画庁長官でもある堺屋太一さんの実験作。
武田勝頼の首実験から本能寺まで、織田信長明智光秀がそれぞれ独白を繰り返します。二人が同じ事象に対してまったく正反対の感想を持ったり、違う考えを抱いたりします。

 堺屋版信長は結構いいことを考えているし、案外部下のことも思いやっているつもりなのですが、光秀には理解不能・冷酷な主人です。でも、思ったことをいうと殴られるので光秀はグッとガマンの毎日です。

 国盗り物語でも思いましたが、この二人の関係は面白い。

信長は自分では間違った世の中に突っ込んでいるつもりですが、実は結構ずれている。ぼけ突っ込みなのです。そこで、光秀がボソボソ突っ込むので、怒られる。業を煮やした光秀は「本能寺の変」という強硬な「突っ込み」を敢行しますが、ツッコミはボケをを滅ぼしてはいけないのではないかな?
なんて、未来の凡人が偉そうなこといってすみません!

信長   秋山駿

信長 (新潮文庫)

信長 (新潮文庫)

秋山駿 新潮文庫


これは現代における「信長」評論(あるいは評価)の最高峰かもしれません。

日本史上、もっとも非凡、もっとも独創的、もっとも不可解な男。信長。
著者「秋山駿」は、桶狭間から本能寺まで追いつつそんな「信長」に迫っています。

自軍が不利になると信長は先頭をきって駆け、精兵たちを勝利に導く。その「大音声」「ご威光」の凄まじさ。
楽市楽座」「関税の廃止」「道路の建設」など百姓や町人のエネルギーを引き出す政策。
朝廷から進められた官位を辞退していった信長は何をみつめていたのか?

今日の現実を否定し、非現実を現実のものとするべく行動していったのが、信長である、と秋山氏は語ります。
私は「信長」というと「永遠の前衛」というイメージがありますので、秋山氏の信長評論には多々頷くところがありました。

著者「秋山駿」は「信長」をテーマにしたこの作品で野間文芸賞毎日出版文化賞を受賞しています。

信長の親衛隊  戦国覇者の多彩な人材

信長の親衛隊―戦国覇者の多彩な人材 (中公新書)

信長の親衛隊―戦国覇者の多彩な人材 (中公新書)

 


戦国覇者の多彩な人材 中公新書 谷口克広

 

 この本で谷口克広氏は信長の近臣・近習たちに光を当てています。
信長という人は固定した組織を作らず、人材を流動的な状態においておき、たえずその中から最適な人材を抜擢していったそうです。最初はどんなに身分が低くても、才能さえあればどこまででも抜擢していった。秀吉もその一人だそうです。

 その組織論は、松岡正剛氏の「千夜千冊」でも取り上げられています。

http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0455.html

 このようなダイナミックな組織は「カリスマ」にしか作れない、と松岡氏は書いています。



 そんな近習達の中でも印象に残ったのが、前田利家。信長の小姓から馬廻の一員になった22歳のとき、拾阿弥という人を殺し、信長に勘当される。その後前田利家桶狭間の戦いに密かに参加し、3つの首をとって帰参を願う。だが信長は許さない。その一年後、有名な豪将を討ち取り、ようやく帰参が許されたという。なかなか健気ではありませんか・・・。

 他にも一般に知られていない様々な近臣が登場して、とても興味深い。本能寺の変で信長とともに討ち死にした者、その時他の場所にいたのに本能寺や信忠のいた二条城にわざわざ駆けつけ明智軍に殺された者。うまく生き残って秀吉に重用された者。歴史の流れの中で懸命に生きた近習達に焦点を当てると、彼等もまた歴史の大きな作り手だったのだと感じざるおえません。


 

手紙から読み解く 戦国武将 意外な真実

手紙から読み解く戦国武将意外な真実

手紙から読み解く戦国武将意外な真実

 過大な思い込みや自分独自のキャラ設定から織田信長を書く「作家」「評論家」が多い。織田信長は「中間」「ほどほど」というものがない人なので、書き手によって180度評価がぐるんっ!とひっくり返ってしまう。

 比叡山焼き討ちにしたって、「政教分離を実現させた革命」と賞賛する人もいれば、「卑劣なサディスト」と誹謗する人もいる。いったいどっちなんだ?と思う。両方兼ね備えていたような気もするが、なんにしても見つめていると「落ち着かない人」だ。多動な3歳児を見ているときのような気分になる。

 そんな中、地道に資料にあたって淡々と「武将像」をトレースしていくこの本は好感が持てた。
戦国大名を残された手紙から読み解いていこうというもので、16人の戦国大名の「手紙」と解説文が紹介されている。伊達政宗などは「手紙魔」だったらしく、文章も表現力豊かで魅力的だ。

 「織田信長」の手紙も紹介されている。一揆を起こした越前の本願寺門徒を制圧した時の手紙や高天神城が降伏を願い出ているのに「無視せよ」という手紙。秀吉の浮気に悩む秀吉の正室「ねね」に宛てた手紙。

 いずれも、自分の言いたいことを相手に伝わるように書いて、かつ無駄が無い。頭のいい男だなー、とあらためて思う。

 気配りがきいているようで結構「押し」が強い。こういう相手だとついつい「イエス」といってしまいたくなりそうだ。

信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)



信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス


ファンタジー小説であり、歴史上の織田信長とはかけ離れた「信長像」を楽しめる。

この宇月原晴明織田信長は、両性具有。
しかも、若き日の秀吉が「こんないい女、見たことがない」というほどの美貌だ。
この無二の存在と共に天下統一を目指していく秀吉や光秀、家康。
闇で信長を支える尭照。

ありきたりかもしれない。が。この設定が、あまりにも美味しい!
文章は翻訳調で、詩の如く言葉に神経が行き届き、美しい。
おどろおどろしい場面も文章の透明度が高いため、さらりと読むことができる。


そして、この物語には、もう一つ舞台がある。
1930年代のベルリンに滞在する詩人であり作家、演劇人であるアントナン・アルトーのもとに表れた謎の青年総見寺。彼は、220年代のローマ皇帝ヘリオガバルスと信長の繋がりを話し始める・・・

物語は、ベルリンと戦国時代が行きつ戻りつするので、大変読みづらい。

ワタシは、戦国編だけでいいよー!と叫びたくなった。